愛媛県 松山市 米本マタニティクリニック 産婦人科

院長のコラム

【無痛分娩】

経腟分娩は、娩出力(陣痛)、娩出物(赤ちゃん)、産道の三つの要素が極めてうまくバランスがとれて初めて、達成されます。
陣痛が強いと感じた時のみ、硬膜外カテーテル(背骨の椎体間より硬膜外に入る管のこと)から麻酔薬を用いる「無痛分娩(和痛分娩)」もありますが、 「完全無痛分娩」の最大の利点は、この娩出力を持続的に100ではなく、50程度の力で分娩を進めていくことにあります。
したがって陣痛が弱まることから、陣痛促進剤の使用が必須です。
陣痛を誘発し、その後硬膜外カテーテルで麻酔薬を持続的に調節しながら使用することで、 必要な陣痛は維持しつつ、感じる痛みは緩和していきます。
また、産道は麻酔薬によって柔らかく伸展するため、赤ちゃんは産道を下がりやすくなります。

初めてのお産の場合、陣痛の開始時から分娩に至るまでの時間は平均15時間、2回目以降の出産は7.5時間とされています。
一方、硬膜外カテーテルがずれることなく適切な位置に挿入され、かつ適量の麻酔薬で陣痛が調節されて産道が十分に柔らかくなった場合は、 通常より比較的早く分娩は進み、子宮口は全開大(子宮頸部10cm開大)の状態となります。
通常、我々スタッフはここで分娩介助の準備を始めますが、麻酔薬により陣痛が弱まっているため、以後の分娩進行はゆっくりになる傾向にあります。
本来、子宮口の全開大後の陣痛が2~2.5分間隔で起こる場合、徐々にいきみが加わり、初めてのお産では平均2時間、2回目以降は1時間で分娩に至ります。
一方、無痛分娩の場合は4~5時間かかることがあり、特に初めてのお産の際に顕著といえます。
そして、いきみが加わったとしても、麻酔薬の影響でそれが弱く、結果として赤ちゃんの位置の下がりが悪くなります。
そのため、吸引分娩や、時には牽引力の強い鉗子分娩を選択することがほぼ必須になります。
また、赤ちゃんは子宮内を回旋しながら産道を下がっていきますが、陣痛が弱いため回旋が不十分になり、 産道を下がることができない場合もみられ(回旋異常)、帝王切開の原因ともなります。
さらに、分娩時間が必然的に長くなることから、分娩後の弛緩出血(子宮の復古が悪く、出血が急速に増加すること)や、 母体の脱水による血圧低下も生じやすくなってしまいます。

完全無痛分娩は、最小の硬膜外麻酔薬で陣痛が緩和され、回旋異常なくスムーズに赤ちゃんが下がり、 鉗子分娩や吸引分娩など医療介入することがなければ、これほど優れた分娩方式はありません。まさに、本を読みながら出産するといった感じになります。
一方で、そのリスクが発症した時は重度に至ることが多いため、十分に熟考して選択されるべきと考えます。
初めから“リスクがある”といって敬遠せず、まずは気軽に医師に質問して、完全無痛分娩のメリット・デメリットを十分に理解されたうえで、検討いただけたらと思います。

米本 寿志